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長崎の祭りとまちづくり
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1,980円(税込)
長崎の祭りとまちづくり
「長崎くんち」と「ランタンフェスティバル」の比較研究
《著者のことば》
本書の調査・研究地域は異国情緒に満ちた港町あるいは
世界第二の被爆都市として国内外に知られる長崎市である。
現在、全国的に地方の景気停滞、人口減少、少子化、高齢
化が進行しており、長崎市も著しい人口減少・流出や厳し
い経済状況に見舞われている。その対策として、長崎市に
おいては、特有の歴史・文化を生かした多種多様なまちづ
くりが推進されている。その中で特に注目されているのは、
長崎くんちをはじめ、精霊流し、ランタンフェスティバル、
みなとまつり、帆船まつりなど、新旧の多くの祭りやイベ
ントによるまちづくりである。
長崎の多くの祭りの中から、本書で第一の研究事例とし
て取り上げたのは、諏訪神社の大祭である「長崎くんち」
であり、その主な理由としては以下の二つが挙げられる。
一つは、1626年から始まったこの祭りが長崎と共に成長、
発展し、人々の暮らしの中で受け継がれてきた伝統行事
であり、地域アイデンティティの形成と展開過程を如実
に記録した歴史・文化資産でもあるからである。いま一
つは、くんちの誕生から現在に至るまでの歴史は「まち
づくり」と深く関わっていると言い得るからである。
また、近年、観光客誘致と地域の振興発展を第一の狙い
として、日本各地で新たな祭りが次々に創り出されている。
古い歴史を持つ伝統的な祭りに比べて、こうした目的で新
しく創出された祭りは、より高い集客力と経済効果を有し
ており、現在、各地域の新たな魅力や個性を生み出し、さ
らにコミュニティを形成させる機能を果たしている。創出
された祭りとまちづくりの関係についてアプローチするこ
とによって、祭りによるまちづくりを別の視点から考察す
ることができるであろう。このような新しい祭りの一例と
して、本書の第二の研究事例は、ランタンフェスティバル
である。この祭りは、元々長崎在住の華僑の人々が春節
(旧正月)を祝うための行事として始めたもので、1994年
から規模が拡大され、長崎を代表する祭りの一つとなった
のである。
本書は3部から構成されている。
第Ⅰ部は長崎くんちの踊町におけるまちづくりを考察した。
第1章はくんちの歴史に関する資料やこれまでの研究成果
をまとめ、長崎開港に遡って、諏訪神社の建立、くんちの
奉納開始の経緯を述べ、さらにその後の伝統形成の過程を
記述。そして、くんちの踊町、日程、演し物などの詳細に
ついてまとめた。さらに、江戸時代から現在までの歴史背
景を概観し、まちづくりにおいて長崎くんちが果たしてき
た機能の変遷の大要を述べ、その意義を考察。第2章は20
06年、41年ぶりに踊町として復帰を果した丸山町を考察
対象として取り上げた。かつて踊町の「露払い」として格
別の存在であったこの町は、町の衰退に伴い、踊町出場の
辞退を迫られざるを得なかったが、キーパーソンに導かれ
た自治会の活動によってくんちへの劇的な復帰を遂げたの
である。第2章は「遊郭丸山」の衰退から丸山町の踊町辞
退に至る過程を記述。また、踊町復帰を支えた自治会とキ
ーパーソンの活動を記す上で、なぜ復帰を果たすことがで
きたのかについて解明した。くんちにおける地縁の変化な
どを分析することによって、今後のまちづくりの発展のた
めに祭りと自治会がどのような役割を果たし得るかを展望
して、現代に生きる自治会機能の再構築について考察した。
第3章は、1966年に町界町名の変更を余儀なくされ、古川
町と鍛冶屋町の一部となった踊町の銀屋町を取り上げ、こ
の町の2007年の旧町名復活を成功させたまちづくりに焦点
を当てる。まず、銀屋町の歴史を概観し、くんちとの関わ
りを説明する上で、旧町名の意義を記述。そして、旧町名
復活の過程を記録すると共に、くんちへの参加を契機とし
た旧町名復活によってコミュニティ再生を実現する上での、
「地域性」と「共同性」の意義について検討した。
つづく第Ⅱ部はランタンフェスティバルにおけるまちづ
くりの現状を分析し、その課題を明らかにした。第1章は長
崎華僑の誕生、華僑社会の変遷及び新地中華街の成立の過
程を振り返り、さらに「春節祭」の創出から「ランフェス」
の開催までの経緯を記述。第2章は地域マネジメントを展開
する上でのキーワードとされる「協働」と「共生」に焦点を
当て、新しい祭りによるまちづくりの可能性を探った。具体
的には、「ランフェ」の運営システムの現状を記述する上で、
長崎市と中華街との「協働」を考察。また、新地中華街の華
僑への聞き取り調査を通して、長崎市の商店街の現況や、ラ
ンタン装飾範囲の拡大と祭りの集客・経済効果の増加が果さ
れたことを記述し、華僑社会と日本人社会の間における「共
生」の実態についても考察を加える。
最後の第Ⅲ部はくんちと「ランフェス」におけるまちづく
りの比較を通して、それぞれの特徴と課題を明らかにした。
第1章は二つの祭りを舞台として龍踊りを行う踊町、各団体・
組織に焦点を当て、伝統的な祭りと新しい祭りがそれぞれ、
龍踊りを通して、まちづくりとどのように関係するかを考察。
考察の切り口としては、1990年代から日本各地のまちづくり
の重要なキーワードとなりつつある「地域ブランド」を挙げた。
第2章はくんちとランフェスにおける祭り空間の演出と利用の
実態を記述し、両者の比較を通して、祭りのあり方と町の構造、
住民、まちづくりとの関わりなどを考察。
この本は、おくんちと「ランフェス」の詳細を知りたい方、
まちづくりの関係者をはじめ、特に学部・大学院の学生たちに、
関連論文を書く時の参考書としてお勧めします。
《著者紹介》章 潔 (しょう けつ)(Zhang Jie)
1977年中国江蘇省無錫市生まれ。
2012年、博士号「地域マネジメント」取得。
2018年より、伊万里市まちづくり課に入職。
同年から、中国淮北師範大学外国語学院の特任教授を兼任。
また、現在は文化庁の地域日本語教育コーディネーター、
総務省の多文化共生アドバイザーなどとして、多様なまちづくりに携わっている。
「長崎くんち」と「ランタンフェスティバル」の比較研究
《著者のことば》
本書の調査・研究地域は異国情緒に満ちた港町あるいは
世界第二の被爆都市として国内外に知られる長崎市である。
現在、全国的に地方の景気停滞、人口減少、少子化、高齢
化が進行しており、長崎市も著しい人口減少・流出や厳し
い経済状況に見舞われている。その対策として、長崎市に
おいては、特有の歴史・文化を生かした多種多様なまちづ
くりが推進されている。その中で特に注目されているのは、
長崎くんちをはじめ、精霊流し、ランタンフェスティバル、
みなとまつり、帆船まつりなど、新旧の多くの祭りやイベ
ントによるまちづくりである。
長崎の多くの祭りの中から、本書で第一の研究事例とし
て取り上げたのは、諏訪神社の大祭である「長崎くんち」
であり、その主な理由としては以下の二つが挙げられる。
一つは、1626年から始まったこの祭りが長崎と共に成長、
発展し、人々の暮らしの中で受け継がれてきた伝統行事
であり、地域アイデンティティの形成と展開過程を如実
に記録した歴史・文化資産でもあるからである。いま一
つは、くんちの誕生から現在に至るまでの歴史は「まち
づくり」と深く関わっていると言い得るからである。
また、近年、観光客誘致と地域の振興発展を第一の狙い
として、日本各地で新たな祭りが次々に創り出されている。
古い歴史を持つ伝統的な祭りに比べて、こうした目的で新
しく創出された祭りは、より高い集客力と経済効果を有し
ており、現在、各地域の新たな魅力や個性を生み出し、さ
らにコミュニティを形成させる機能を果たしている。創出
された祭りとまちづくりの関係についてアプローチするこ
とによって、祭りによるまちづくりを別の視点から考察す
ることができるであろう。このような新しい祭りの一例と
して、本書の第二の研究事例は、ランタンフェスティバル
である。この祭りは、元々長崎在住の華僑の人々が春節
(旧正月)を祝うための行事として始めたもので、1994年
から規模が拡大され、長崎を代表する祭りの一つとなった
のである。
本書は3部から構成されている。
第Ⅰ部は長崎くんちの踊町におけるまちづくりを考察した。
第1章はくんちの歴史に関する資料やこれまでの研究成果
をまとめ、長崎開港に遡って、諏訪神社の建立、くんちの
奉納開始の経緯を述べ、さらにその後の伝統形成の過程を
記述。そして、くんちの踊町、日程、演し物などの詳細に
ついてまとめた。さらに、江戸時代から現在までの歴史背
景を概観し、まちづくりにおいて長崎くんちが果たしてき
た機能の変遷の大要を述べ、その意義を考察。第2章は20
06年、41年ぶりに踊町として復帰を果した丸山町を考察
対象として取り上げた。かつて踊町の「露払い」として格
別の存在であったこの町は、町の衰退に伴い、踊町出場の
辞退を迫られざるを得なかったが、キーパーソンに導かれ
た自治会の活動によってくんちへの劇的な復帰を遂げたの
である。第2章は「遊郭丸山」の衰退から丸山町の踊町辞
退に至る過程を記述。また、踊町復帰を支えた自治会とキ
ーパーソンの活動を記す上で、なぜ復帰を果たすことがで
きたのかについて解明した。くんちにおける地縁の変化な
どを分析することによって、今後のまちづくりの発展のた
めに祭りと自治会がどのような役割を果たし得るかを展望
して、現代に生きる自治会機能の再構築について考察した。
第3章は、1966年に町界町名の変更を余儀なくされ、古川
町と鍛冶屋町の一部となった踊町の銀屋町を取り上げ、こ
の町の2007年の旧町名復活を成功させたまちづくりに焦点
を当てる。まず、銀屋町の歴史を概観し、くんちとの関わ
りを説明する上で、旧町名の意義を記述。そして、旧町名
復活の過程を記録すると共に、くんちへの参加を契機とし
た旧町名復活によってコミュニティ再生を実現する上での、
「地域性」と「共同性」の意義について検討した。
つづく第Ⅱ部はランタンフェスティバルにおけるまちづ
くりの現状を分析し、その課題を明らかにした。第1章は長
崎華僑の誕生、華僑社会の変遷及び新地中華街の成立の過
程を振り返り、さらに「春節祭」の創出から「ランフェス」
の開催までの経緯を記述。第2章は地域マネジメントを展開
する上でのキーワードとされる「協働」と「共生」に焦点を
当て、新しい祭りによるまちづくりの可能性を探った。具体
的には、「ランフェ」の運営システムの現状を記述する上で、
長崎市と中華街との「協働」を考察。また、新地中華街の華
僑への聞き取り調査を通して、長崎市の商店街の現況や、ラ
ンタン装飾範囲の拡大と祭りの集客・経済効果の増加が果さ
れたことを記述し、華僑社会と日本人社会の間における「共
生」の実態についても考察を加える。
最後の第Ⅲ部はくんちと「ランフェス」におけるまちづく
りの比較を通して、それぞれの特徴と課題を明らかにした。
第1章は二つの祭りを舞台として龍踊りを行う踊町、各団体・
組織に焦点を当て、伝統的な祭りと新しい祭りがそれぞれ、
龍踊りを通して、まちづくりとどのように関係するかを考察。
考察の切り口としては、1990年代から日本各地のまちづくり
の重要なキーワードとなりつつある「地域ブランド」を挙げた。
第2章はくんちとランフェスにおける祭り空間の演出と利用の
実態を記述し、両者の比較を通して、祭りのあり方と町の構造、
住民、まちづくりとの関わりなどを考察。
この本は、おくんちと「ランフェス」の詳細を知りたい方、
まちづくりの関係者をはじめ、特に学部・大学院の学生たちに、
関連論文を書く時の参考書としてお勧めします。
《著者紹介》章 潔 (しょう けつ)(Zhang Jie)
1977年中国江蘇省無錫市生まれ。
2012年、博士号「地域マネジメント」取得。
2018年より、伊万里市まちづくり課に入職。
同年から、中国淮北師範大学外国語学院の特任教授を兼任。
また、現在は文化庁の地域日本語教育コーディネーター、
総務省の多文化共生アドバイザーなどとして、多様なまちづくりに携わっている。
■A5判 フルカラー 126ページ
■定価 1800円(税別) ■ISBN978-4- 88851-210-7 C0039
ISBN978-4- 88851-210-7
長崎の祭りとまちづくり
1,980円(税込)